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AIと英会話させたら何が変わるか|小中学校NOIM実証で見えた傾向と課題

AIと英会話させたら何が変わるか|小中学校NOIM実証で見えた傾向と課題

英語教育において、ミスへの恐れや対人的な緊張から発話をためらう心理的ハードルは、継続的な学習参加を阻む課題として認識されています。本記事は、株式会社リプロネクストの対話型AIコンシェルジュ「NOIM(ノイム)」を活用したAI英会話授業の教育実証結果を整理したもので、英語教育・EdTech分野の教育関係者や、学校現場での導入を検討している担当者を対象としています。

本記事では、AI英会話NOIMを埼玉県・静岡県の2校(小学6年生・中学2年生)に導入した教育実証の結果を整理します。英語スキルの向上ではなく、英語を話すことへの意識や気持ちの変化に焦点を置き、事前・事後アンケートと会話ログの双方からデータを収集しました。AI英会話が心理的ハードルにどう作用するか、その傾向と限界を一次情報としてお伝えします。

1. 実証の概要と検証の目的

1-1. 英語教育における「話すこと」の現状

英語教育における「話すこと」の難しさは、国の調査データにも明確に現れています。国立教育政策研究所が実施した令和5年度全国学力・学習状況調査では、中学3年生の英語「話す」の平均正答率は12.4%にとどまり、「聞く」58.9%・「読む」51.7%・「書く」24.1%と比較して、全領域中最も低い水準でした(出典:国立教育政策研究所「令和5年度 全国学力・学習状況調査 報告書(中学校英語)」)。文部科学省「英語教育実施状況調査」では、中学生の英語力目標(CEFR A1レベル・英検3級相当以上)の達成率は令和4年度49.2%、令和5年度50.0%(初の5割超え)、令和6年度52.4%と着実に上昇しています。国が第4期教育振興基本計画(令和5〜9年度)で掲げる令和9年度末60%以上という目標に向け、改善傾向が続いています(出典:文部科学省「令和6年度 英語教育実施状況調査」)。

これらの数値が示す課題は、技術的なスキル不足にとどまりません。「間違えたらどうしよう」「相手にどう思われるか」という心理的なブレーキが、発話そのものを妨げる要因のひとつとして知られています。本実証では、AIとの対話という環境がこの心理的ハードルを変えうるかという問いを出発点に設計されました。

1-2. NOIMのアプローチと本実証の焦点

「NOIM(ノイム)」は、対話型のAIコンシェルジュ。進学相談・就職相談・移住相談・住宅相談など、あらゆる相談現場で思考を整理し次の一歩を後押しする、高品質な対話を提供しています。教育現場においては、英語学習用にカスタマイズし、AIキャラクターと1対1でやり取りする英会話学習として活用いただいています。

NOIMとの対話活動は、通常の授業に比べて英語発信活動への不安のフィルターを弱め、学習者の英語発信への主体性を高めることが期待されます。本実証においても、AIとの対話環境では人間の評価者が存在しないことから、発話への心理的ハードルが下がる可能性が示唆されました。

本実証では英語スキルのスコアではなく、英語を話すことへの気持ちの変化に焦点を置き、事前・事後アンケートと会話ログの双方からデータを収集しました。

1-3. 対象校と実施概要

実証は2校を対象に実施しました。埼玉県上尾市立大石南小学校では小学6年生、静岡県浜松市立舞阪中学校では中学2年生が参加しています。データは事前・事後アンケート(Q1〜Q18)による意識変化の定量把握、会話ログの行動分析、自由記述の定性分析で収集しました。

項目大石南小学校舞阪中学校
所在地埼玉県上尾市静岡県浜松市
対象学年小学6年生中学2年生
生徒ID登録数47名87名
事前アンケート有効回答50名72名
事後アンケート有効回答42名71名

2. 大石南小学校(小学6年生)の実証結果

・大石南小学校:授業の様子

2-1. 会話の実態:ターン数と継続率

大石南小学校では44件の会話ログが分析対象として抽出されました。平均会話ターン数は56.7回であり、1会話あたりの平均発話単語数は4.1語、AIからの質問への応答率は70.4%でした。利用パターンは積極的利用が40名(91%)、中程度利用が4名(9%)に分類され、途中で離脱した会話は確認されませんでした。

2-2. アンケートにみる意識変化

英語が好きかを問う設問(Q1)のポジティブ率は、事前92.0%(n=50)から事後90.5%(n=42)でした。英語を話す際のまちがいへの不安(Q3)のネガティブ率は、事前64.0%から事後61.9%へと微減しました。

事後アンケートでは、英語を話す回数を増やしたいという回答が78.6%、今後も練習したいという回答が90.5%でした。NOIMの体験評価として「楽しかった」(Q11)の肯定率は100%、「話せた」(Q12)の肯定率は92.9%(否定3名の内訳は「あまり話せなかった」2名・「話しにくかった」1名)でした。

2-3. 児童の言葉と担任の視点

なお、以下に登場する児童・生徒の名前はすべてニックネームを使用しています。自由記述では、AIとの対話による緊張感の軽減と、発話に対する認識の変化を示す記述が複数確認されました。

NOIMを使ってみて、英語を前より緊張せずに話せるようになったなと実感しました

英語は難しいと思っていたのですが、あまり難しくないと思えるようになりました

担任の先生との振り返りでは、AIへの心理的なハードルの低さが児童の発話につながっている一方で、短期間では会話の質(話題の連続性・文脈の維持)を評価できないという課題が提起されました。NOIMをゲーム性を持った練習活動として位置づける現在の設計を活かしつつ、会話の質的な側面を捉える分析軸が今後に必要であるという見解が共有されています。

3. 舞阪中学校(中学2年生)の実証結果

3-1. 会話の実態:ターン数と継続率

舞阪中学校では77件の会話ログが分析対象として抽出されました。平均会話ターン数は28.1回であり、1会話あたりの平均発話単語数は3.6語、AIからの質問への応答率は70.9%でした。

3-2. アンケートにみる意識変化

英語への好意(Q1)のポジティブ率は、事前50.0%(n=72)から事後53.5%(n=71)に上昇しました。事前に「嫌い」と回答した割合は8.3%(6名)から1.4%(1名)に減少しています。英語を話す際のまちがいへの不安(Q3)のネガティブ率は、事前84.7%(61/72)から事後81.7%(58/71)へと低下しました。

事後アンケートの「英語を話すことが好きになりましたか」への肯定(大好きになった・少し好きになった)は97.2%(69/71)でした。発話回数を増やしたいという回答は40.8%、今後も練習したいという回答は85.9%でした。NOIMの体験評価では「楽しかった」(Q11)の肯定率が94.4%、「話せた」(Q12)の肯定率は73.2%であり、否定的な回答が約4分の1に留まっています。

3-3. 生徒の言葉と担任の視点

自由記述では、対人的な発話プレッシャーと比較したAI対話の安心感を示す記述が複数確認されました。

人と対面で話すと、ここで間違えたら、どうしようと思うとしゃべれなくなりますが、間違えても直してくれるので使い続けられる。英語に慣れていけたらいいなと思いました

伝えればOKって思えるようになった。完璧じゃなくても、一言でも世界が広がる気がして、わくわく

という声は、発話に対する認識の変化を表しています。

担任の先生からは、NOIMが主体的に質問を繰り出す設計が生徒の受動的な姿勢を招く可能性がある点(自ら会話を主導する姿勢への影響)、難易度の幅や応答の長さへの課題が指摘されました。また「言いたいことが言えない生徒」には、翻訳ツールを画面分割で併用し、日本語で入力した内容を英語に変換して読み上げるという現場の工夫が有効であったことが報告されています。NOIMを補助・ならし段階の活動として位置づけ、人間教師との役割分担を設計することが現場との整合において重要であるという見解も共有されました。

4. 2校の比較と考察

4-1. 出発点の違いがもたらす変化の性質

2校の比較で最も顕著な差異は、英語への好意度の出発点にあります。大石南小学校(事前ポジティブ率92.0%)においてNOIMは高い好意水準を維持する機能を果たし、舞阪中学校(事前ポジティブ率50.0%)においては「嫌い」の割合の減少と好意率の緩やかな上昇が確認されました。発話回数を増やしたいという意向は、大石南小学校78.6%に対して舞阪中学校40.8%と約40ポイントの差があります。「話せた」という設問への肯定率も小学校92.9%・中学校73.2%と乖離があり、発達段階・英語学習段階の差が体験評価の違いに影響している可能性があります。

指標大石南小学校舞阪中学校
平均ターン数56.7回28.1回
Q1ポジティブ率
(事前→事後)
92.0%→90.5%50.0%→53.5%
Q3ネガティブ率
(事前→事後)
64.0%→61.9%84.7%→81.7%
「楽しかった」肯定率(Q11)100%94.4%
「話せた」肯定率(Q12)92.9%73.2%
発話回数増加意向(Q14)78.6%40.8%
今後も練習したい(Q15)90.5%85.9%

4-2. 事前ネガティブ層に絞った追跡(N=36名)

事前アンケートで英語への好意が低い層(「嫌い」または「あまり好きではない」)のうち、事前・事後のデータが対応付けられた児童・生徒は両校合計36名(大石南小4名・舞阪中32名)でした。このうち35名(97.2%)がNOIM体験後の「英語を話すことが好きになりましたか」という設問に肯定的な回答を示しています。否定的な変化(「少し嫌いになった」)が確認されたのは1名でした。ただし、事後アンケートの英語への一般的な好意(Q1)では、同じ36名の77.8%が引き続き「あまり好きではない」と回答しています。

NOIM体験直後の評価としての「好きになった」と、日常的な英語との関わりを反映するQ1の好意度は別の次元にあり、短期的な体験評価が恒常的な態度変容を示すものではないという点に留意が必要です。

4-3. 測定上の留意点

本実証における測定上の主な留意点は2点です。第一に、対照群が設けられていないため、NOIMの利用のみを変化の要因として分離することはできません。第二に、2校・2学年のデータに限定されており、他校・他学年への一般化にはさらなる検証が必要です。

5. 現場の声と今後の課題

5-1. 子どもたちから得られたヒント

事後の自由記述や授業後のやり取りでは、NOIMへの関心と愛着を示す声が複数確認されました。「NOIMが育っていったら嬉しい」という期待は男女問わず共有されており、男子生徒からは「レベルアップしたい」、女子生徒からは「会話量に応じてデコりたい」という具体的な要望も挙がっています。また「もっと表情があったら嬉しい」という声も聞かれ、AIキャラクターとのやり取りを感情的なつながりとして捉えている様子が見られました。

現場の観察では、生徒がNOIMを友達感覚で話しかける場面が多く確認されており、「話しやすい順はNOIM、友達、先生」という回答も得られています。

5-2. 今後の方向性

本実証および現場の声を通じて、特に英語へのマインドがネガティブな層に対してNOIMの効果が発揮されやすいという示唆が得られています。これは第4章「97.2%の肯定変化」とも整合しており、英語嫌いの児童・生徒への働きかけという文脈での活用が有効な場面のひとつとして挙げられます。

継続的な授業実施とデータ蓄積を通じて、会話の質的分析・長期効果の検証・機能改善を組み合わせた運用設計の精緻化が今後の方向性となっています。

まとめ

本実証は、対話型AIコンシェルジュNOIM(ノイム)を活用した英会話授業を埼玉県上尾市立大石南小学校と静岡県浜松市立舞阪中学校で実施し、英語を話すことへの心理的変化を多面的に検証したものです。

事前に英語への好意が低かった児童・生徒のうち事前事後のペアデータが取れた36名の97.2%がNOIM体験後「好きになった」と回答し、舞阪中学校では「嫌い」の割合が8.3%から1.4%に減少しました。一方、NOIM体験直後の評価と日常的な英語への態度は区別して読む必要があり、短期的な体験評価が恒常的な態度変容に結びつくかどうかは継続的な観察が前提となります。

本実証は対照群を持たず2校に限定されたデータであることを踏まえながら、英語を話すことへの心理的ハードルを下げる可能性について示した一次情報として参照可能です。今後、継続して研究開発を進め、子ども達一人ひとりのよりよい学びに寄り添うNOIM在り方を探究していきたいと考えています。

  • 仮説1 NOIMとの対話活動は、通常の授業に比べて英語発信活動への不安のフィルターを弱め、学習者の英語発信への主体性を高める。
  • 仮説2 NOIMとのコミュニケーション経験は、学習者の英語学習への動機づけ、および英語コミュニケーションへの自信を高め、対面コミュニケーション場面におけるWTC(Willingness to Communicate)を高めることにつながる。
  • 仮説3 NOIMとの対話活動は、発信能力育成のための教材としてだけではなく、受信能力の育成を促す役割をも果たすことができる。
  • 仮説4 対話データは、英語運用力の評価の際に活用できる。
  • 仮説5 NOIMとのコミュニケーション活動は、画像提示や体験型デジタル空間(メタバース)との接続などにより、目的、場面、状況が明らかとなることで、コミュニケーションへの高い参加度と対話内容の質の向上・高度化につながる。

実証アドバイザー

金森 強 氏
文教大学大学院 教育学研究科 教授
専門は英語教育、英語音声学
中央教育審議会第四期外国語専門部会委員
日本実践英語音声学会理事
日本児童英語教育学会理事

主な研究テーマ:早期英語教育論、言語教育政策、
        英語教材開発、 音声言語としての英語指導 
        メタバース・AIを活用した言語活動

大学のゼミでは、台湾の小学校、中学校、大学との交流を行い、参加した学生が、小学校での英語授業の指導、中学校英語授業参観、教員との交流、大学におけるプレゼンテ―ション・交流を行うことを通して、国際的な視野を持つ教員の育成にも取り組んでいる。

主な著作・監修:『CLILで習得する 小学校英語指導の基礎』(ミネルヴァ書房)のほか、英語教育に関する論文や著書を多数執筆


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