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新潟県「にいがた暮らし」に見る、対話型AIコンシェルジュ「NOIM」実証の102日間
見えなかった「本音」が、施策と広報を動かす。
U・Iターンを検討する方向けに、東京都内にU・Iターン総合相談窓口「にいがた暮らし・しごと支援センター(にいがたくらしごとセンター)」を構え、専属の相談員による対面・電話・オンライン相談を行ってきた新潟県。
開所時間の制約や、住まい・仕事・子育てなど多岐にわたる相談内容への対応負担という課題を抱えるなか、2026年4月17日、対話型AIコンシェルジュ「NOIM(ノイム)」をU・Iターン総合サイト「にいがた暮らし」に実証導入。そして同年8月1日より本格運用に移行しています。
本記事では、実証事業の企画・運用を担当した産業労働部しごと定住促進課のご担当者様への取材をもとに、導入の背景・運用してみての実感や成果・本導入を決めた理由を紹介します。

開所時間の制約と情報量の壁──移住相談窓口が抱えていた課題
―これまでの移住相談窓口には、どのような課題がありましたか。
県では、東京都内にU・Iターン総合相談窓口「にいがたくらしごとセンター」を設置し、専属の相談員が対面や電話、オンラインで移住相談に対応してきました。一方で、「なんとなく新潟に興味がある」といった情報収集段階の方には、窓口の利用登録や相談員への相談自体に心理的なハードルを感じる方もいらっしゃいます。相談まで結びつかず、ライト層の方を取りこぼしている可能性があるのではないか、という課題がありました。
また、相談窓口には営業時間の制約や定休日があり、必ずしも相談を希望する方の都合に合わせられるとは限りません。ウェブサイト等でも情報発信していますが、情報量が多いため、希望に応じた情報をわかりやすく、時間や場所に縛られずに提示できる仕組みが必要だと感じていました。
「にいがた暮らし」に参照範囲を限定──実証事業に踏み切った決め手
―生成AIの活用を検討する中で、庁内ではどのような議論がありましたか。
導入の検討段階では、生成AIの活用について慎重な議論がありました。行政サービスとして提供する以上、誤った回答を利用者へ示してしまうことは避けなければなりません。そこでリプロネクスト様と協議し、実証事業段階ではNOIMが参照する情報を、新潟県のU・Iターン総合サイト「にいがた暮らし」の内容に限定することにしました。
「にいがた暮らし」サイトは県が管理・運営しており、県内市町村の特徴や、県や市町村等が実施するU・Iターン支援施策を、県、市町村が自ら掲載しています。インターネット上の不確かな情報を広く参照するのではなく、根拠元が明確で正確な情報のみを学習元とすることで、回答の信頼性を確保できると考えました。回答精度を高めるための取組についても、リプロネクスト様から様々な提案をいただき、安心してサービスを提供できる環境が整備されたことから、実証事業に取り組むこととしました。
―実証事業に踏み切る前、NOIMに一番期待していたことは何でしたか。
にいがたくらしごとセンターの開所時間外でも利用できる、新たな情報収集ツールとしての機能を期待していました。また、NOIMはAIとの対話形式なので、相談員に聞くほどではない内容でも、気兼ねなく質問することができます。いつでも、どこからでも、誰でも利用できる移住相談の入り口として役立ってほしいという思いがありました。
想定は「漠然とした質問」、実際は「仕事」と「支援金」に集中──運用してみての実感
―実際に運用してみて、質問の傾向に発見はありましたか。
当初は地域の特徴や観光、暮らしに関する漠然とした質問が多いと想定していましたが、実際には仕事や移住支援金に関する質問が多く寄せられました。年収額や勤務希望エリアを具体的に絞ったうえで転職先を尋ねる質問や、世帯構成や転入先エリアを踏まえた移住支援金の交付金額の見込みについて尋ねる質問等、ライト層だけでなく移住検討度が高いと推測されるユーザーのニーズも一定数あることも分かりました。利用者の関心がどこに向いているのかを把握できた点は、大きな成果だったと思います。
利用者の行動も興味深く、検索エンジンのように単発で質問するだけではなく、NOIMとのやり取りを重ねながら関心を深めていく傾向が見られました。対話形式で自分の考えを整理しながら情報収集できる点は、移住相談にマッチしているのではないかと感じています。
―逆に、物足りなかった点や課題を感じたことはありますか。
課題としては、回答精度を確保しながら、どこまで具体的な回答ができるか、という点です。「にいがた暮らし」サイトの情報に限定して運用した結果、質問に対応したデータが存在せず回答できないケースがみられました。
また、移住支援金などの補助金や支援制度の詳細に関する質問が多かったのですが、こうした制度は要件が細かく規定されており、金額だけを単純に提示すると誤解を招くおそれがあります。利用者の満足度向上につなげるためには、できるだけ具体的な回答ができるよう、AIの学習範囲を拡充させる必要があると感じています。
相談フォームへの遷移率16.18倍、再訪問率も大きな差──成果と変化
「にいがた暮らし」サイト利用者のうち、NOIM利用者と非利用者の「にいがた暮らし」サイトの利用状況を比較すると、NOIM利用者の方が「にいがた暮らし」サイト内でより積極的に情報収集を行う傾向がみられました。3回以上サイトを再訪問した割合は、非利用者に比べて約10倍に上ります。また、利用件数の約24.4%はにいがたくらしごとセンターの開所時間外となり、当初期待していた効果が一定数みられました。
対象期間(2026年4月17日〜7月27日、102日間)のログを分析した結果は、以下の通りです。
| 指標 | NOIM利用者 | 非利用者 | 倍率 |
|---|---|---|---|
| 相談フォームへの遷移率 | 31.2%(65件) | 1.9%(670件) | 16.18倍 |
| 平均滞在時間 | 18分49秒 | 1分57秒 | 9.67倍 |
| 中央値 滞在時間 | 4分50秒 | 5秒 | 58.10倍 |
| 平均PV数(ユーザーあたり) | 6.88 | 1.70 | 4.04倍 |
| 3回以上サイト訪問率 | 23.1%(48件) | 2.1%(739件) | 10.83倍 |
ユーザーの興味・関心・不安感が「見える化」される──本導入を決めた理由
―実証事業を経て、2026年8月からNOIMを有償で本導入されると伺いました。一番の決め手は何だったのでしょうか。
一番の決め手は、利用者の興味・関心・不安感がデータとして見える化される、という点です。
これまで、移住検討者が何に興味を持ち、何を不安に感じているかは、相談窓口に来ていただいた方の声からしか把握できませんでした。特に、WEBで情報を探している初期検討層においては、リアルな声を拾う手段がありません。NOIMとの対話ログを通じて、利用者のニーズを反映した生の声が可視化されることで、事業の企画や改善、広報の打ち出し方など、効果的な移住施策の企画立案に活用できると感じたことが、本導入を決めた一番の理由です。
―ChatGPTのような汎用の生成AIと、NOIMのような専用サービスとの違いをどう捉えていますか。
一番は、情報の正確性という部分だと思います。汎用の生成AIはインターネット上の広い情報を基に、ユーザーに寄り添った回答を提供しますが、参照している情報の正確性は必ずしも担保されていません。移住を検討し、「にいがた暮らし」サイトを閲覧する方は、行政が提供する正確で信頼できる情報を求めていると思います。NOIMであれば学習範囲をコントロールし、情報の正確性を確保できるという点が、汎用の生成AIとの大きな違いだと捉えています。
一方で、正確性の確保と回答の自由度とのバランスが難しいと感じています。より具体的な情報を求める利用者にとっては、今のNOIMの回答では物足りなさを感じることがあるかもしれません。そのため、今後は学習データを拡充し、回答の柔軟性や具体性を高めていきたいです。また、各地域の情報量が重要になりますので、市町村に対して「にいがた暮らし」サイトの掲載情報を充実させるなど、協力をお願いしたいと考えています。
―移住を検討する方にとって、NOIMはどのような役割を果たすと考えていますか。
NOIMには、人と話をする最初の心理的なハードルを下げて、窓口(にいがたくらしごとセンター)への接続を促す、いわば橋渡しの役割を担ってほしいと考えています。単に移住支援制度に関する質問へ回答するだけでなく、県が掲載する移住者インタビュー記事「ニイガタビト」等を学習させて、実際の移住者の体験を踏まえた、より具体的で生の声を盛り込んだ回答ができるようにしたいです。
NOIMとの対話を通じて気軽に質問や相談ができる環境をつくり、そこから、より詳しい相談ができる窓口へつながってもらう。そうした、移住検討者と相談窓口との間をつなぐ存在になってくれることを期待しています。
―他の自治体にこの取り組みを勧めるとしたら、どのように伝えたいですか。
まずは目的を明確にしたうえで導入することが重要だと思います。24時間365日対応できるAIの強みを活かしながら、人にしかできない業務との役割分担を考えることで、より効果的な行政サービスにつながるのではないかと思います。定型的な情報提供はAIが担い、相談者の個別事情を踏まえた相談や気持ちに寄り添う対応は相談員が担うという形が効果的だと考えています。
―今後の取組について教えてください。
今後は、回答精度を高めていくため、市町村とも連携しながら「にいがた暮らし」サイトのさらなる充実を図るとともに、NOIMの学習範囲を県ホームページなどに拡げることを検討していきます。また、実証期間中には把握しきれなかった、NOIM利用後のにいがたくらしごとセンターの相談予約や利用登録への影響についても分析を進める予定です。今後も運用ログを継続して分析し、県内市町村や関係機関とも情報共有を行いながら、移住検討者のニーズに合った情報提供や相談対応力の向上につなげていきたいと考えています。
取材を終えて
―本日はありがとうございました。お話を伺いながら、新潟県様は「行政として担保すべき正確性」と「利用者に寄り添う手軽さ」の両立に、実証事業を通じて真摯に向き合われていると感じました。
行政の仕事は、どうしても「正確でなければならない」という制約が先に立ちます。ですが、移住を考える方にとって一番のハードルは、実は最初の一歩を踏み出すところにあるのだと、この実証を通じて改めて感じました。正確さを保ちながら、その最初の一歩をどれだけ軽くできるか。そこに、行政サービスとしてのAI活用の意味があるのだと思っています。
<代表 藤田より>
私自身も約10年前に新潟へUターンした経験があり、移住を考える中で感じた不安や迷いがありました。だからこそ、こうして10年越しに新潟県の移住支援に携われることを大変うれしく思っています。
新潟県は、四季折々の豊かな自然や、おいしい食など、多くの魅力にあふれた地域です。AIを活用した新しい相談体験を通じて、一人でも多くの方にその魅力を伝え、新潟での新しい暮らしへの一歩を後押しできればと思います。
(取材:藤田・河合/編集:桂)