メタバース
#採用・研修
採用×メタバース|地方企業・自治体の事例から見る活用メリットと注意点

メタバースは、仮想空間でありながら現実世界のコミュニケーションやビジネスを拡張できる新しいインフラとして注目されています。近年は「採用 メタバース」といったキーワードで情報収集をする企業・学生も増え、採用活動の新しいチャネルとして本格的に検討されるようになってきました。
特に、地理的な制約を抱える地方企業や自治体にとって、メタバースは「距離の壁」を超えて自社の魅力や地域の魅力を発信できる有効な手段になりつつあります。一方で、導入や運用にはコストやノウハウも求められるため、メリットと注意点の両方を理解したうえで検討することが重要です。
本記事では、メタバースを採用活動に活用するメリット・デメリット・注意点を整理したうえで、自治体・企業の具体的な事例を紹介します。地方採用の強化を検討している方や、メタバースの活用方法を模索している方は、ぜひ参考にしてください。
1. 採用でメタバースが注目される背景
1-1. メタバースとは何か
メタバースとは、インターネット上に構築された三次元の仮想空間の総称で、ユーザーはアバターと呼ばれる自分の分身を通じて、移動・会話・イベント参加などの活動ができます。ゲームやエンタメ分野で広がってきた概念ですが、現在はビジネス、研修、教育、広報、採用など、用途が急速に多様化しています。
すでに「あつまれ どうぶつの森」や「Fortnite」のようなオンラインゲームで、ライブやコラボイベントが開催されるなど、仮想空間が人と情報の新たな接点になっていることは、広く認知されつつあります。こうした空間を、企業や自治体が自らの目的に合わせて“採用の場”として設計する動きが広がってきました。
1-2. 地方採用を取り巻く環境の変化

地方企業・自治体の採用活動は、少子高齢化や都市部への人口流出の影響を強く受けています。国土交通省の「地方における人口・労働力の変化」によると、2020年から2050年までに地方の労働人口は約40%減少すると予測されています。特に地方中小都市や中山間地域では急速な人口減少が進み、高齢化の影響により労働力人口の減少はその速度を上回る見通しです。
こうした背景の中で、地方企業は採用候補者となる母集団が都市部に比べ圧倒的に少ないという構造的課題を抱えています。さらに、地理的な制約によって全国の求職者へ情報を十分に届けられず、魅力的な事業を展開していても「知られていない」状態に陥りやすい点も大きな問題といえます。
オンライン説明会の普及によって距離の壁は部分的に解消されたものの、企業文化や職場の雰囲気、働くイメージを十分に伝えきれないという課題は依然として残っています。都市部で説明会を実施する場合は移動費や会場費などの負担が大きく、求職者側も距離や時間の問題から参加をためらうケースが多く見られます。
これらの問題の根底には、求職者が実際に会社へ足を運ぶ機会が限られていること、そして企業の魅力が「体感として伝わりにくい」状況が続いていることがあります。その解決策の一つとして、物理的な制約を受けずに企業の魅力を直感的に伝えられるメタバースが、新たな採用手段として注目されているのです。
2. メタバース採用のメリット
ここでは、メタバースを採用活動に取り入れることで期待できる主な効果を整理します。特に「採用 メタバース」という観点で、地方×採用の場面でどのような価値を生み出せるのかを見ていきます。
2-1. 地理的制約を超えた母集団形成
メタバース空間は、PCやスマートフォンなどのデバイスとネット環境さえあれば、全国どこからでもアクセスできます。そのため、これまでリアルイベントへの参加ハードルが高かった首都圏・遠方在住の学生や転職希望者にも、気軽に説明会や相談会の場を開くことができます。
地方企業や自治体にとっては、「地元以外の母集団」にアプローチできる点が大きな魅力です。結果として、採用ターゲットの幅を広げやすくなります。
2-2. 企業・地域の魅力を“体験”として伝えられる
メタバースの特徴は、「平面の資料」ではなく「体験」で魅力を伝えられることです。オフィスや工場、街並み、地域資源を仮想空間上に再現すれば、参加者はその場を歩き回りながら、雰囲気やスケール感を直感的に理解できます。
地方自治体であれば、自然環境や観光地、街の雰囲気をメタバース上に再現し、そこで採用相談会やイベントを行うことで、「働く場所」「暮らす場所」としての魅力をセットで伝えることも可能になります。
2-3. コストと時間の削減
従来、地方企業が都市部で説明会を開催する場合、会場費・移動費・宿泊費などのコストが発生していました。メタバースを活用すれば、そうした物理的な負担を抑えつつ、継続的にイベントを開催できます。
一度構築したメタバース空間は、採用説明会、インターンシップ、社内行事、商品・サービスの説明など、複数用途で横断的に活用できます。中長期的には、自社の採用インフラとして機能させていくことも可能です。
2-4. 応募者の心理的ハードルを下げる
メタバースでは、アバターを介してコミュニケーションを行うため、顔出し不要・匿名可能な設計がしやすくなります。「いきなり企業の人事担当者とビデオ通話するのは緊張する」という学生にとっても、アバターで参加できるメタバース就活は、質問や相談をしやすい環境です。
その結果、企業側も応募者の本音や不安を聞きやすくなり、ミスマッチの抑制につながります。採用広報と選考の両面で、メタバースならではの「話しやすさ」が活かせます。
2-5. DX・先進性のアピール
メタバースを採用活動に取り入れること自体が、「デジタル活用に積極的な組織である」というメッセージになります。特にIT・ものづくり・研究開発など、技術分野の人材を採用したい企業にとっては、「DXに取り組む姿勢」を具体的に示す手段としても有効です。
単なる流行追随ではなく、自社の事業や採用課題に合わせたメタバース活用を行うことで、ブランドイメージの向上にもつながります。
3. メタバース採用のデメリット・注意点
メリットが大きい一方で、導入前に把握しておきたいリスクや注意点も存在します。
3-1. 導入・運用に関する知識とリソースが必要
メタバースを採用活動に使いこなすには、プラットフォーム選定、空間設計、コンテンツ制作、当日の運営設計など、従来の採用活動とは異なる視点が求められます。
自社内だけで完結させようとすると、担当者の負担が大きくなり「作って終わり」になりかねません。目的を明確にしたうえで、外部パートナーと連携しながら企画・運営を設計することが現実的です。
3-2. 利用環境・操作性への配慮
メタバースには、ある程度の通信環境やデバイス性能が必要になる場合があります。求職者によってPC・スマホ・タブレットなど利用端末が異なるため、参加方法や推奨環境を事前に分かりやすく案内することが重要です。
初心者向けの参加マニュアルや、事前接続テストの実施など、利用環境の違いを前提としたサポートを用意すると安心です。
3-3. セキュリティと個人情報保護
メタバース上でも、個人情報や選考に関するやり取りが発生します。利用するプラットフォームのセキュリティ仕様を確認し、参加者のアカウント管理やログイン方法にも注意が必要です。
また、仮想空間内でのハラスメントや不適切な発言を防ぐためのルールづくりや、モデレーション体制の検討も欠かせません。採用広報の場であると同時に、公平性と安心感を担保することが求められます。
3-4. コミュニケーションと評価の難しさ
アバターでのコミュニケーションは心理的ハードルを下げる一方、表情や細かなニュアンスが伝わりにくい側面もあります。一次接点はメタバース、最終面接は対面やオンライン会議ツールで行うなど、プロセス全体の設計によってカバーすることが重要です。
メタバースだけですべての選考を完結させるのではなく、他の手段と組み合わせたハイブリッドな設計を前提に考えると良いでしょう。
4. 採用・人材獲得におけるメタバース活用事例7選
ここからは、採用・就職支援・人材獲得の観点でメタバースを活用している事例を7つ紹介します。この中には、リプロネクストが関わっている事例として「静岡県様」「日亜鋼業株式会社様」も含めています。
4-1. 静岡県|Metaverse SHIZUOKAを活用した「メタバースde採用相談会」

・出典:PR TIMES
静岡県は、県全体を3D点群データで再現したメタバース空間「Metaverse SHIZUOKA」を構築し、広報・広聴活動の拠点として活用しています。
この空間を活用し、静岡県職員採用試験に関する質問・相談ができる「メタバースde採用相談会」を開催。参加者は顔出し不要・匿名可のアバターで参加でき、昼・夜の部に分けて、仕事の合間や就業後にも参加しやすい設計としています。
県庁まで足を運ぶことなく、全国から気軽に相談できる点が特徴で、「地方自治体の採用×メタバース」の代表的な事例といえます。
▶Metaverse SHIZUOKA 公式サイトは こちら
▶事例紹介:「静岡県|広聴・広報活動に活用するメタバース空間構築」の詳細は こちら
4-2. 日亜鋼業株式会社|メタバーステーマパークを起点にした認知向上と将来の採用活用

日亜鋼業株式会社は、線材製品の利用シーンをテーマパーク形式で体験できるメタバース空間「NICHIA METAVERSE WIRE WORLD(日亜メタバースワイヤーワールド)」を開設しました。
同社はBtoBビジネスが中心で一般消費者への認知度が課題となっていたため、自社製品が暮らしの中でどのように使われているかを、楽しく学べる空間として設計。メタバース内のアトラクションを巡ることで、日常生活のさまざまな場面で線材製品が使われていることを視覚的に理解できます。
今後は、このメタバース空間を工場見学やショールーム、学生向け企業説明会などにも展開する構想があり、将来的な採用・人材獲得の接点として活用を予定しています。
▶日亜鋼業株式会社「NICHIA METAVERSE WIRE WORLD」公式サイトは こちら
▶事例紹介:「日亜鋼業株式会社|メタバースによるテーマパーク『NICHIA METAVERSE WIRE WORLD』」詳細は こちら
4-3. 新潟市|METAVERSE CAREER EXPO IN NIIGATA 2025

株式会社リプロネクストは、仮想空間プラットフォーム「Roomiq(ルーミック)」上で、新潟県内企業15社が出展するメタバースキャリアイベント「METAVERSE CAREER EXPO IN NIIGATA 2025」を開催しています。新潟市では若年層や中堅層の都市部への転出が続き、企業の人材確保が大きな課題となる中、求職者が地元企業の情報にアクセスしづらい状況が続いていました。こうした背景を踏まえ、企業と求職者が仮想空間で出会う新たなマッチングの仕組みとして本イベントが企画されました。
本イベントは2025年11月5日から2026年1月30日まで開催され、参加者はスマートフォンやPCからアバターで企業ブースを巡回できます。360°社内風景や代表・社員インタビュー、企業の雰囲気を伝える写真など、多角的に理解できる内容を提供しています。また、2025年12月13日には、参加者と企業担当者がリアルタイムで交流できるイベントを実施し、双方が気軽につながる機会を設けています。
▶事例紹介:「新潟市|METAVERSE CAREER EXPO IN NIIGATA 2025」の詳細は こちら
4-4. 中京テレビ放送株式会社|メタバース会社説明会

・出典:中京テレビ
中京テレビは、就職活動中の学生向けに、メタバース空間を活用した会社説明会を実施しました。アバターで参加する形式を採用したことで、心理的なハードルを下げつつ、匿名で質問しやすい環境を提供しています。
定員を大きく上回る応募があり、参加者アンケートでも高い満足度を得たとされており、放送局という人気業界においても「メタバースを使った新しい説明会のかたち」として評価されています。
4-5. 株式会社ビヨンド:メタバース面接

・出典:株式会社ビヨンド
株式会社ビヨンドは、2024年度新卒エンジニア採用において、VRゴーグルを用いた「メタバース面接」を導入しました。面接への申し込みは、ニックネームと、メールアドレスのみ。学歴・性別・年齢などの固定概念にとらわれない、人間性を知るための面接を行うためにメタバースを活用しています。
4-6. とちぎメタバース就活オンライン|地方合同説明会のオンライン展開

・出典:アサヒ・ドリーム・クリエイト
栃木県の企業情報発信を支援する取り組みとして、アサヒ・ドリーム・クリエイトがメタバースを活用した合同企業説明会「とちぎメタバース就活オンライン」を紹介しています。同社は、地方における採用課題に対する新しい解決策として、メタバース説明会の有効性を事例としてまとめ、発信しています。
メタバース会場では、学生がアバターを通じて自由にブースを回り、企業担当者と会話できる設計となっており、移動を伴わずに県内企業の魅力を理解できる点が評価されています。特に県外学生の参加促進や、企業との偶発的な出会いが生まれやすい点が特徴です。
4-7. リプロネクスト|自社メタバースオフィスによる採用コミュニケーション

株式会社リプロネクストでは、自社オフィスをメタバース上に再現した「バーチャルオフィス」を制作し、採用イベントやオンライン説明会で活用しています。
エントランスや各フロアを回遊しながら、ミッション・ビジョン・バリュー、事業内容、制作実績などをインタラクティブに理解できる設計とすることで、「オンラインでも会社の雰囲気が伝わりにくい」という課題解消に取り組んでいます。採用だけでなく、営業プレゼンやオンライン商談などへの展開も視野に入れた空間設計が特徴です。
▶事例紹介:「リプロネクスト|自社のメタバースオフィスをRoomiq上で制作」の詳細は こちら
5. メタバース採用を導入する際のポイント
5-1. まず「目的」を言語化する
採用でメタバースを活用する際は、最初に「何を実現したいのか」を明確にすることが重要です。例えば、地方採用の母集団拡大が目的なのか、企業や地域の魅力発信が主目的なのか、それとも採用プロセスの効率化(選考・面談)を重視するのかによって、設計すべき体験は大きく変わります。
目的が曖昧なまま空間だけを作ってしまうと、「一度イベントをして終わり」という状況になりやすいため、事前の整理が不可欠です。
5-2. 既存の採用フローとどう組み合わせるかを決める
メタバースは、あくまで採用フローの一部を担う手段です。「認知・興味喚起のフェーズで使うのか」「インターンシップや企業理解の深化に使うのか」「一次面談をメタバースで行うのか」など、既存の採用プロセスのどこにメタバースを位置づけるかを整理しましょう。
既存のオンライン説明会や対面面接と組み合わせることで、応募者の理解度や納得感を高めることができます。
5-3. 参加者目線の体験設計を重視する
メタバース空間は、作ること自体が目的ではなく、「参加者がどのような情報・体験を得られるか」が重要です。初めての人でも迷わず動ける導線、質問しやすい距離感やコミュニケーション方法、後から情報を振り返れる資料・動画の設置など、求職者目線でのデザインを意識することで、採用活動としての成果にもつながりやすくなります。
また、参加ハードルを下げるために、「まずは見学だけでもOK」「顔出し不要」「匿名で質問できる」などの工夫を取り入れるのも有効です。
6. まとめ|メタバースは「地方採用」を変える新しい選択肢
メタバースを求人・採用募集に活用することで、地理的な制約を超えて全国・海外から人材を集められること、企業・自治体・地域の魅力を「体験」として伝えられること、移動コストを抑えながら双方向のコミュニケーションを実現できることなど、多くのメリットが期待できます。
一方で、プラットフォーム選定や空間設計、運用体制など、検討すべきポイントも多くあります。メリットとデメリットを踏まえたうえで、自社の採用課題にフィットした形でメタバースを取り入れることが大切です。
株式会社リプロネクストでは、Metaverse SHIZUOKAやNICHIA METAVERSE WIRE WORLD(日亜鋼業様)など、自治体・企業のメタバース活用を企画から開発・運営まで一貫して支援してきました。地方での採用強化や、メタバースを活用した新しい人材コミュニケーションに関心がある方は、事例のご紹介も含めて、ぜひお気軽にご相談ください。
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