文部科学省が主導する「GIGAスクール構想」に基づき、全国の小・中学校では学習活動の一層の充実を目指し、児童・生徒1人に1台の教育用端末(タブレットやPC)が配布されています。こうした環境の変化に伴い、教育現場ではテクノロジーを活用した学習効果に関する検証が進められています。
そんな中で、IT×教育の先進的な取り組みを行っている鹿児島大学教育学部附属小学校。この度リプロネクストでは、同校からの依頼を受けて英語教育向けメタバース空間を制作しました。
今回のような形で、小学校の学習活動にメタバースを導入することは国内で初めてのこと(※)。取り組みの背景や制作過程、5月に教育関係者約800名に向けて行った公開授業や今後の活用について、鹿児島大学教育学部附属小学校 三宅先生にお話を伺いました。
(※)当社調べ
目次
小学校高学年の児童向けに制作した外国語学習用のメタバース空間。NTTコノキュー社が提供するプラットフォーム「DOOR」を使用し、パソコン・タブレット・VRヘッドセット等のマルチデバイス対応でアクセスできます。
空間はショッピングモールを再現し、フードコート/スーパーマーケット/観光案内所/フリースペースを用意。先生や児童はアバターとなって入室し、お客様役・店員役などのシチュエーションを再現しながら日常会話を実践的に学びます。
■制作事例:鹿児島大学教育学部附属小学校 様 【英語授業向けメタバース制作】
―メタバースプロジェクト以前に、三宅先生からは教育におけるVRの活用について一度お問い合わせをいただいていました。貴校において、教育×テクノロジーをどのようにお考えでしょうか?
社会が目まぐるしいスピードで変化していく中、教育のあり方も柔軟に形を変えていかなければならないという考えが原点にあります。
授業の中で部分的にIT技術に触れるということではなく、学びの在り方・姿勢そのものを変え、質の高い教育を実現するための手段としてテクノロジーの可能性を追求していきたいと考えていて。教育業界全体に向け、そうした流れを率先して作っていこうというカルチャーが当校にはありますね。
また、デジタルネイティブの小学生にとってテクノロジーは日常的な存在です。だからこそ学習のシーンでも積極的に取り入れ、勉強=退屈ではなく、学びを楽しむ心も育んでいきたいと考えています。
―これまでにも、VRを活用した実践を行ったと伺いました。メタバースにはどんな可能性を感じていましたか?
教育×メタバースのキーワードは“体験”。そこで、リアルなコミュニケーションの中でこそ学びや発見が生まれる外国語学習での活用に可能性を感じ、リプロネクストに相談をしました。
目指すイメージはテレビ番組『世界の果てまでイッテQ!』の人気英会話コーナー『出川イングリッシュ』。外国語の世界に飛び込み、オールイングリッシュの中でいかにしてミッションをクリアするか。こうした体験こそが、真に“使える”英語の習得機会につながると感じ、導入することにしたのです。
―メタバースを具体的に形にしていく上で、特に大切にしたポイントなどはありましたか?
外国語学習に使うので、買い物や散策、道案内などのシーンから日常会話が自然に生まれるような空間が理想でした。
当初の打ち合わせでは空港という案もあったのですが、話し合いを重ねた中でより日常的な場であるショッピングモール(複合施設)に決定。空間内の看板等に教科書との連動感を出していただいたり、校内の通信環境を踏まえて3DCGの容量を調整いただいたり、シンプルながらも細部までこだわったオリジナルの空間を作ってもらえました。
プレビューで初めて見た時は、教員同士も童心に返ったように楽しみましたね!(笑)
ユーザーが小学生であることがわかるような柔らかさを持ちつつも、アニメっぽくなりすぎず理想的なトーンで仕上げていただき大変よかったです。
―実際に使ってみた児童の皆さんの反応は、どのようなものでしたか?
児童たちからも「すごい!」と声が上がり、デジタル空間に入り込んでいるような感覚があると感動していました。3DCGソフトの『Unity』が使える児童もいて、子どもたちの適応力にはこちらも驚かされましたね。
授業で活用してみて感じたのは、児童たちの発言量が圧倒的に増えたことです。普段から発言する児童はもちろんですが、控え目な子もアバターでコミュニケーションをとることで、リラックスして会話ができている印象でした。
―5月に実施された先生・教育関係者の方を約800名招待した公開授業でも「メタバース英会話」が紹介されました。その様子もぜひ教えてください。
当日は鹿児島国際大学の学生が店員役、児童たちはお客様役としてフードコートを使ってメタバース内での英語でのやりとりを公開しました。参観いただいた方のアンケートを見ると満足度が高く、「コミュニケーションの取り方が先進的だった」「リアルに寄り添った学習が見られた」などの感想をいただきました。
教育委員会の方からは「不登校や引きこもりの児童たちの学習参加にも寄与できそうだ」というご意見もあり、小学生がメタバースを活用する現場を目の当たりにしたことで、可能性の広がりも感じていただける機会になりました。
一方で改善の余地も沢山あります。例えば、今回は教科書で事前に学んだ英語を用いたやりとりをメタバースで使う形式にしましたが、教科書→メタバースではなく、メタバース→教科書のアプローチも良いかもしれません。
先ほど『出川イングリッシュ』を例に出しましたが、子どもたちを右も左もわからぬ状態で空間に開放する。ポテトがほしいから、手を差し出して「プリーズ」と伝えてみるとポテトが手に入ることもあれば手に入らないこともある。うまく伝わらなかった体験は子どもたちにとって新たな課題となります。この課題をなんとか解決しようとすることに外国語ならではの学びが生まれます。そして、伝わらなかったことが伝わるようになったという体験こそがリアルな学びかもしれません。
それが実現できるのがメタバースの面白さだと思っています。
―三宅先生のおっしゃる通り、アプローチを変えるだけで全く異なる効果が見込めそうですね。今後さらにより良いものにしていくために、メタバース空間の改善点もぜひ教えていただきたいです。
今回はアバターに表情を反映する機能はありませんでしたが、外国語コミュニケーションの中では表情やジェスチャーといった非言語も一つの要素になるのでアップデートできたら面白いなと感じています。
パソコンやタブレットからのログインだと、まだZoomのような“見ている感覚”に近い部分もあるので、今後さらに現実世界の五感に近づけていけたら良いですね。
―英語教育向けメタバース空間は、今後どのように活用予定でしょうか?
引き続き外国語の授業の中で5、6年生を中心に活用していきます。授業冒頭のイントロダクションや、授業の後半で振り返りに使うなど、単元を通した様々な使い方を試していく予定です。
また海外の提携校や、時差のないオーストラリアの小学生の皆さんとメタバース空間に集まって異文化交流も行いたいですね。
汎用性のある空間であるからこそ、使い道を広げていきたいと思います。
―テクノロジーと教育の可能性を追求している鹿児島大学教育学部附属小学校様ですが、今後の展望についてもぜひお聞かせください。
直近だと、7月の中旬にARスポーツに挑戦します。
今後も様々なテクノロジーを現場で活用し、実践を重ねる中で新たな教育の可能性を探っていきます。
教育業界全体に新しい風を吹かせられるような存在を目指していきたいです!
インタビューを通じ、教育におけるメタバースは単なる学習ツールではなく、様々な障壁を取り除く可能性に溢れた選択肢であると再確認できました。
私たちリプロネクストも鹿児島大学教育学部附属小学校様のように、まだ世の中に事例のないことに挑戦し続け、新しい価値を生み出すような歴史を紡いでいきたいと思います!
三宅先生、この度はインタビューにお答えいただきありがとうございました!