メタバース
メタバースプラットフォームの現在と選び方|ハイプサイクルを踏まえた導入判断

メタバースという言葉が広く認知される一方で、「失敗」「終了」「オワコン」といったネガティブな評価も目立つようになりました。Meta社による投資縮小の報道や、エンターテインメント領域以外での明確な成果不足が、こうした評価の背景にあります。しかし、これは技術そのものの終焉を意味するものではなく、ガートナーが提唱するハイプサイクルにおける「幻滅期」に該当する段階と捉えることができます。
本記事では、メタバースプラットフォームの現在を整理した上で、自治体・企業・教育機関といったtoB/toG領域での活用実態と課題を示し、導入フェーズに応じた選定基準を解説します。
1. メタバースプラットフォームの現在地

メタバースは2021年頃から急速に注目を集め、多くの企業や自治体が実証実験や導入検討を進めてきました。しかし、期待が先行した結果、エンターテインメント以外の領域では明確な成果が示されにくく、投資対効果への疑問が生じる状況もあります。こうした状況は、新技術が普及する過程で一般的に観察される現象であり、ガートナーのハイプサイクルでは「幻滅期」と呼ばれる段階に相当します。
幻滅期とは、過度な期待が修正され、実用性や適用範囲が再定義される時期を指します。メタバースにおいても、エンターテインメント領域では一定の成熟が見られる一方、自治体や企業における業務活用では実証段階が続いており、継続的な検証と改善が求められます。現在は「終わった」のではなく、「どの領域で、どのような目的で活用すべきか」が問い直されている段階といえます。
エンターテインメント領域では、音楽ライブやブランドイベント、ゲーム内での交流など、ユーザー体験を重視した取り組みが定着しつつあります。一方、自治体・企業・教育機関といったtoB/toG領域では、物理的制約の補完や継続的な接点設計を目的とした導入が試みられていますが、運用負荷や利用者定着の課題も報告されており、成果の蓄積にはなお時間を要する状況です。
2. メタバース導入で整理すべき判断軸
メタバースプラットフォームを導入する際には、技術の新規性や話題性ではなく、解決したい課題と運用体制を明確にすることが重要です。導入目的が曖昧なまま進めた場合、期待した効果が得られず、投資対効果への疑問が生じる可能性があります。
まず、導入目的を具体的に整理する必要があります。物理的な移動制約を補いたいのか、継続的な接点を設計したいのか、あるいは社内理解や検証を目的とするのかによって、求められる機能や運用設計は異なります。目的が明確でない場合、プラットフォーム選定や運用設計の判断基準が定まらず、導入後の改善サイクルも回しにくくなります。
次に、適用領域の見極めが必要です。エンターテインメント領域では、ユーザーが自発的に参加し、交流や体験を楽しむ動機が存在します。一方、自治体や企業における業務活用では、利用者に明確なメリットや動機を提供しなければ継続的な利用につながりにくい傾向があります。こうした違いを踏まえ、自組織の用途がどの領域に該当するかを整理することが重要です。
さらに、運用フェーズの設計も欠かせません。初期検証段階では操作感の確認や社内理解の醸成が主目的となりますが、実証運用段階では利用データの取得や改善サイクルの構築が必要です。本格運用に進む場合には、安定性やサポート体制、継続的な運営負荷を考慮した選定が必要です。導入前にこれらのフェーズを想定しておくことで、プラットフォーム選定の判断軸を整理しやすくなります。
3. toB/toG領域での活用実態と課題
自治体・企業・教育機関におけるメタバース活用は、エンターテインメント領域とは異なる目的と制約を持ちます。物理的制約の補完や継続的な接点設計を目指す取り組みが進められていますが、運用負荷や利用者定着の課題が生じるケースもあり、明確な成果が示されるまでには時間を要している状況です。
3-1. 自治体における活用事例
自治体では、ひきこもり支援や不登校支援といった福祉・教育分野での活用事例があります。対面や電話を前提とした相談窓口では支援が必要な層に届かず、継続的な接点を設計しにくいという課題があり、メタバースを活用することで場所や時間を問わない相談・支援の入り口を構築する試みが行われています。また、観光分野では、自然・文化・環境資源が天候や季節、保全上の制約により常時公開が難しい状況に対し、デジタル空間を通じた継続的な発信と活用設計といった取り組みがあります。
合同企業説明会においても、メタバースとAIを組み合わせた活用が進められています。会場規模や日程による参加者数の制限、一過性開催による企業理解の浅さ、特定企業への情報集中といった課題に対し、メタバース空間を活用することで参加制約を超えた公平な情報接触機会を提供する取り組みが行われています。

例えば、山梨県甲府市が実施した「県央ネットやまなし メタバース合同企業説明会(令和7年度・第2回)」では、メタバース空間内にAIコンシェルジュを配置することで、営業時間外でも参加者の質問に対応できる体制を構築し、時間や場所を問わない継続的な企業情報提供を実現しています。
3-2. 教育機関における活用事例
教育機関では、オープンキャンパスや相談窓口での活用事例があります。地理的距離や日程制約により参加機会が限定される状況に対し、メタバースを用いて継続的な志望形成を支える接点を設計する取り組みが進められています。また、相談が特定部署や担当者に集中し、開室時間の制約や初歩的質問と個別対応の混在によって対応負荷が高まる課題に対し、AIと連携した相談窓口の設計といった試みもあります。
3-3. 企業における活用事例
企業では、採用活動や広報・ブランディングにおけるメタバース活用が進められています。対面での会社説明会や施設見学では地理的制約や日程調整により参加機会が限定される状況に対し、メタバース空間を活用することで場所を問わず企業情報や職場環境を継続的に発信する取り組みが行われています。
また、VR・AR技術との組み合わせにより、製造業・建設・インフラ分野では安全研修や技術教育への応用も見られます。実地訓練の安全上の制約により事故・ヒヤリハット体験の共有が難しい状況に対し、バーチャル空間を通じた疑似体験や、AI技術と連携した対話型の研修設計といった活用が可能です。
これらの取り組みは実証段階にあり、運用負荷の軽減や利用者定着に向けた継続的な検証が必要な段階です。エンターテインメント領域のように自発的な参加動機が生まれにくい場合、利用者にとっての明確なメリット設計や、運用側の体制整備が課題となります。成果が明確に示されるまでには時間を要する状況ですが、物理的制約を補完する手段として一定の可能性が認められており、実証を通じた改善が続けられています。
4. 主要メタバースプラットフォームの特徴と向き不向き
メタバースプラットフォームは、技術基盤や想定用途によって特徴が異なります。導入目的や運用体制に応じた選定を行うためには、各プラットフォームの特性と向き不向きを理解しておくことが重要です。
4-1. Roomiq(株式会社リプロネクスト)

Roomiqは、株式会社リプロネクストが運営するブラウザ型メタバースプラットフォームです。アプリのインストールを必要とせず、PC・タブレット・スマートフォンからすぐにアクセスできる手軽さが特長です。もともとNTTコノキューが運営していたDOORを継承し、直感的に操作できるUIと高精細なグラフィックを備えています。導入ハードルが低く、BtoB用途が増えており、企業や自治体による活用が進んでいます。
自治体によるひきこもり支援や観光プロモーション、教育現場でのオンライン授業など、多様な分野で活用が進んでいます。また、オリジナル空間の構築やアクセス解析にも対応しており、初めてメタバースを導入する組織にも導入しやすい設計です。
4-2. cluster(クラスター株式会社)
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clusterは、国内発のメタバースアプリとして高い認知を得ているプラットフォームです。イベント開催やワールド制作が可能で、企業展示会や社内研修、大学のオープンキャンパスなど、多人数が同時に参加できる環境を提供しています。
3D開発ツール「Unity」との連携により、オリジナル空間の構築も比較的容易です。国内企業が運営しているため、日本語サポートが充実している点も利点です。教育・文化イベントなど、多人数同時接続を前提とした用途に向いている傾向があります。
4-3. VRChat(VRChat Inc.)

VRChatは、世界的に利用されている交流型のメタバースプラットフォームです。ユーザーは自分のアバターを作成し、3D空間内で他のユーザーと会話や共同作業を楽しむことができます。VRヘッドセットを使うことで、より高い没入感を得ることも可能です。
ユーザー自身が「ワールド」と呼ばれる仮想空間を自由に制作・公開できる点が特徴です。個人制作による文化的なコミュニティや教育向けの利用など、多様な使い方が生まれています。国際的なユーザーが多く、グローバルな交流を前提とした用途に向いています。
4-4. その他のプラットフォーム
The Sandboxは、ブロックチェーン技術を活用したメタバースプラットフォームです。ユーザーは「LAND」と呼ばれる土地を所有し、独自の空間を開発できます。作成したアイテムやキャラクターをNFTとして販売できる仕組みを備えており、企業やクリエイターがバーチャル展示やイベントを実施する事例があります。エンターテインメントやブランド表現の舞台として注目されています。
Fortniteは、アメリカのEpic Games社が開発したオンラインプラットフォームです。もともとはバトルロイヤル型ゲームとして知られていますが、現在では音楽ライブや映画上映、ブランドイベントなどが行われるエンターテインメント空間としても活用されています。Creativeモードでは、ユーザーがオリジナルの空間やルールを作成できる点が特徴です。
Robloxは、世界中で4億人以上が利用する大規模メタバースプラットフォームです。ユーザーが自らゲームや体験を作成・共有できる仕組みを持ち、教育分野では子ども向けのプログラミング学習にも活用されています。企業やブランドがRoblox上に独自の空間を構築し、体験型のコンテンツを提供する事例があります。
5. 導入フェーズ別の選定基準
メタバースプラットフォームの選定は、導入フェーズによって重視すべき要素が異なります。初期検証、実証運用、本格運用のそれぞれの段階で求められる機能や体制を整理し、段階に応じた判断を行うことが重要です。
初期検証段階では、操作感の確認や社内理解の醸成が主目的となります。この段階では、導入ハードルが低く、短時間で空間を体験できるプラットフォームが選ばれやすい傾向があります。メタバースの雰囲気や基本的な操作を把握するには十分な機能が備わっている場合もありますが、細かな導線設計や運用を前提とした設計には対応していないことも多く、あくまで体験レベルに留まる点には注意が必要です。
実証運用段階では、利用データの取得や改善サイクルの構築が必要です。利用者の行動ログやアクセス状況を把握し、運用設計の妥当性を検証するためには、管理機能やデータ取得機能が整っているプラットフォームが必要です。また、継続的な運営を前提とする場合、サポート体制やトラブル時の対応も重要な選定基準となります。
本格運用段階では、安定性、継続性、拡張性が重視されます。企業や自治体でメタバースを活用する場合、単に空間を用意するだけでなく、利用者管理、アクセス制御、セキュリティ面への配慮が必要です。また、運用負荷を抑えるための機能や、長期的な運営を支えるサポート体制も欠かせません。こうした要素は、初期検証段階で選ばれるプラットフォームでは十分に満たせないケースが多く、用途や目的に応じた再検討が必要となります。
6. メタバース活用の今後の方向性
メタバースは現在、ハイプサイクルにおける「幻滅期」にあるとされていますが、これは技術の終焉を意味するものではありません。過度な期待が修正され、実用性や適用範囲が再定義される過程にあります。今後は、エンターテインメント領域での成熟を踏まえつつ、toB/toG領域における実証を通じた適用範囲の絞り込みが進むと考えられます。
技術進化の方向性としては、ブラウザ型プラットフォームの普及が挙げられます。アプリのダウンロードが不要で、デバイスを問わずアクセスできる環境は、導入ハードルを下げる要因となります。また、XR(拡張現実・仮想現実・複合現実)技術の統合により、用途に応じた没入度の調整や、現実空間との連携が可能になる可能性もあります。さらに、AIコンシェルジュとメタバースを組み合わせることで、営業時間外でも利用者の質問に対応できる体制を構築し、継続的な接点を設計する取り組みも進められています。こうした技術の組み合わせにより、物理的・時間的制約を補完する可能性が広がっています。
用途拡張の可能性としては、自治体・企業・教育機関における継続的な接点設計が注目されます。物理的制約を補完する手段として、メタバースは一定の可能性を持ちますが、利用者にとっての明確なメリット設計や、運用側の体制整備が前提となります。実証を通じた検証と改善を重ねることで、適用可能な領域が明確化されていくと考えられます。
幻滅期を経た後、実用性が認められた領域では「安定期」へと移行します。メタバースにおいても、エンターテインメント以外の領域で成果が蓄積されることで、再び評価が高まる可能性があります。現在は、その過渡期にあるといえます。
7. 本記事のまとめ
メタバースは「終わった」のではなく、適用領域の再定義期にあります。ハイプサイクルにおける幻滅期は、過度な期待が修正され、実用性や適用範囲が整理される段階であり、技術そのものの終焉を意味するものではありません。エンターテインメント領域では一定の成熟が見られる一方、自治体・企業・教育機関といったtoB/toG領域では実証段階が続いており、継続的な検証と改善が求められます。
メタバースプラットフォームを選定する際には、導入目的と運用フェーズを明確にすることが重要です。初期検証段階では操作感の確認や社内理解の醸成が主目的となりますが、実証運用や本格運用に進む場合には、利用データの取得、安定性、サポート体制といった要素が必要です。目的とフェーズに応じた選定を行うことで、投資対効果への疑問を抑え、継続的な運営を支える体制を構築できます。
メタバース活用の今後の方向性としては、ブラウザ型プラットフォームの普及やXR技術の統合が挙げられます。また、toB/toG領域における実証を通じた適用範囲の絞り込みが進むことで、実用性が認められた領域では安定期へと移行する可能性があります。現在は、その過渡期にあるといえます。
株式会社リプロネクスト(Lipronext)は、ブラウザ型メタバースプラットフォーム「Roomiq」を運営し、自治体・企業・教育機関におけるメタバース導入を支援しています。メタバースプラットフォームの選定や導入フェーズの設計、AIコンシェルジュとの組み合わせ活用など、目的に応じた設計支援を行っています。メタバース活用をご検討の際は、お気軽にご相談ください。
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