デジタルツイン
デジタルツインを活用している企業と行政の事例7選!メリットと課題も紹介
製造業・自治体・インフラ分野におけるデジタルツイン活用において、現実空間の状態把握や将来予測を物理的な試行なしで行う必要があるものの、現場への移動コストや試作にかかる時間・費用が制約となることが課題です。デジタルツインを活用することで、遠隔からのリアルタイム監視やシミュレーションを通じた検証・最適化が可能になります。
本章では、デジタルツインの概念と活用メリット、導入における課題、類似技術との比較、そして企業・行政による具体的な活用事例について整理します。
1. デジタルツインとは

デジタルツインとは、現実空間に存在する物体や環境をデータとして取り込み、仮想空間上に再現する技術です。AIやIoTといったデジタル技術を組み合わせることで、現実空間を忠実に再現できることから「デジタルの双子」の意味を込めて、この名称が用いられるようになりました。
デジタルツインの特徴は、将来的に発生する可能性がある事象をシミュレーションできる点にあります。仮想空間上でのシミュレーションが実用化された背景には、AIやIoTの進歩により膨大なデータの処理・分析が可能になったことが挙げられます。また、シミュレーションで得られた結果を現実世界へフィードバックし、運用の最適化につなげることも可能です。
2. デジタルツイン活用のメリット
現実の施設・設備・工程を遠隔から把握・管理したい場合や、物理的な試行が困難な状況でシミュレーションを通じた検証・予測を行いたい場合、デジタルツインは実環境をデータ化し仮想空間上で再現・分析できる手段として有効です。ただし、センサー設置やデータ連携基盤の整備が前提となるため、導入目的と運用体制の明確化が必要となります。
デジタルツイン活用によって得られるメリットは、主に以下の4点に整理できます。
2-1. コスト削減と品質向上の両立
従来、製品の完成までには試作品を作成し、何度もテストを繰り返す必要がありました。この過程では、テストに必要な人件費や製造コストが多く発生していました。デジタルツインを活用することで、製品が完成するまでの過程を仮想空間上で再現できるため、コストの削減と時間の短縮が可能になります。
仮想空間上でのシミュレーションでは、テストが失敗しても製品を廃棄する必要がありません。シミュレーションを繰り返すことで、細かい欠陥の洗い出しも可能となります。納得のいく品質になるまで何度でもテストを実施できるため、結果として品質の向上にも貢献します。
2-2. 予知保全による生産安定化
デジタルツインを活用した仮想空間では、生産ラインを構築している環境において、IoTを用いたセンサーから得られたデータを蓄積し分析することが可能です。データの分析によって、どのタイミングで設備に異常が発生するのかを事前に把握できるようになります。
これまでは、トラブルが発生した場合、まず原因の特定から始まるため、復旧までに時間がかかることもありました。デジタルツインの活用により、設備の異常が事前に把握できることで前もってメンテナンスを行い、生産の遅れを防止できる環境が構築できます。
2-3. 遠隔地からの指示と確認の実現
デジタルツインの活用により、遠隔地にいながらでもスマートフォンやタブレットを用いて設備の情報や生産に関する指示書をもとに指示を出すことができます。リアルタイムで現場の状況が把握できるため、対応までのロスタイムの削減効果が期待できます。
トラブルの状況確認や対応のために現場へ向かう必要もなくなることで、人件費の削減につながるほか、従業員の負担軽減にも寄与します。
2-4. 技術継承の促進
技術の継承が滞っている点や、職人の高齢化は製造業を中心に課題となっています。デジタルツインの活用によって、熟練社員が持つ技術やノウハウの蓄積が可能となるため、技術の継承がしやすくなります。
仕事の進め方やトラブル発生時の対応など、業務を円滑に進めるためには覚えるべき内容が多岐にわたります。デジタルツイン上に蓄積されているデータを活用することで、技術の習得にかかる時間が短縮できます。
3. デジタルツイン導入の課題
デジタルツインを活用してデータを取得するには、IoT機器の導入が欠かせません。また、取得したデータの分析や処理を行うAIの導入も必要であることから、多くの費用が発生します。
現実世界に近づけるほど費用が増加していくため、導入の際にはどの程度のクオリティを目指すべきかを検討し、費用を算出することが重要です。
デジタルツインはシミュレーションや予知保全などに役立てられるものの、デジタルツイン自体が万能ではない点にも留意が必要です。たとえば、CADを利用して3Dデータを作成し、動かすためのソフトウェアなどのデジタルツインを用意するだけでは、トラブルが発生しても迅速な対応は難しい場合があります。
デジタルツインは、ソフトウェアや関連する技術の再現が可能です。しかし、トラブルにも対応できるよう、製品の製造から廃版になるまでの過程を確保できる機能も用意する必要があることを認識しておく必要があります。
4. デジタルツインと類似技術との比較
デジタルツインは仮想空間上での再現・シミュレーション技術ですが、類似する技術としてメタバースやVRが挙げられます。これらの技術は目的や適用範囲が異なるため、活用場面に応じた選択が求められます。
4-1. メタバースとの違い
メタバースは、物理的移動や対面参加に制約がある状況において、参加ハードルを下げながら対話性や回遊性を伴う接点を設計したい場合に有効な技術です。デジタルツインが「現実の再現と予測」を目的とするのに対し、メタバースは「共有空間の構築と体験設計」を主目的とします。
たとえば、工場見学やオープンファクトリーにおいて、安全管理や立地制約により実施頻度・受入人数が限定される場合、メタバース技術を活用することで場所を問わず製造現場の技術力・工程を継続的に発信できます。ただし、目的設計や運用設計が整理されていない場合は、十分な効果を得にくい傾向があります。
4-2. VRとの違い
VRは、危険環境や再現困難な状況を安全に体験させる必要がある場合に有効な技術です。デジタルツインが「データに基づく予測・分析」を重視するのに対し、VRは「没入型の疑似体験」を提供します。
たとえば、製造業・建設・インフラ分野の安全研修において、実地訓練の安全上の制約により事故・ヒヤリハット体験の共有が難しい場合、VR技術を活用することで安全意識の均質化と継続的な研修更新を実現できます。ただし、実地経験を補完する設計が前提となります。
4-3. 選択の判断軸
デジタルツインは、リアルタイムデータの取得と将来予測を伴う運用管理に適しています。一方、メタバース・VRは、体験設計や教育・研修といった「人が介在する場の再構築」に適しています。導入目的に応じて、これらの技術を組み合わせることも有効な選択肢となります。
5. 企業・行政によるデジタルツイン活用事例
ここでは、実際にデジタルツインを活用している企業と行政の事例について紹介します。事例は製造業、行政・都市計画、研修・教育の3つの領域に分けて整理します。
5-1. 製造業における活用
製造業では、生産ラインの最適化や設備保全、製品開発の効率化を目的としたデジタルツイン活用が進んでいます。
旭化成

・出典:旭化成
旭化成では、福島県にある水素製造プラントにおいて、2021年にデジタルツインを導入しています。プラントの運用には熟練の技術者が必要であり、主にトラブルの対応を担当していました。しかし、プラントでトラブルが発生した際の対応は、マニュアル化が難しいといった課題がありました。
そこで、課題解決の手段として技術者が不在時にトラブルがあった際でも対応できるよう、スマートフォンのアプリやWebアプリからデジタルツインへアクセスし、現場の状況を把握できるシステムを構築しました。その結果、遠隔地からでも対応が可能となり、生産性の向上につなげられました。
デンソー

・出典:デンソー
デンソーは、最新のIoT技術を活用して乗用車やバスなどのモビリティをクラウド上でまとめ、仮想空間で実際の交通環境を再現しています。仮想空間でシミュレーションを行い、その結果をもとに情報やサービスをフィードバックすることで、現実世界でも安全かつ便利な移動手段の提供につなげています。
デンソーでは「Mobility IoT Core」と「Digital Twin」の2種類の技術を採用しています。Mobility IoT Coreは、モビリティの状態をデジタル化してクラウドと連携させる技術です。Digital Twinは、Mobility IoT Coreで収集したデータを活用して、デジタル空間に再現する技術です。
それぞれの技術を用いることで、データの解析やモビリティの制御が可能となります。モビリティとサービスのマッチングもしやすくなるため、開発にかかる期間やコストの削減も実現しています。
BMW

・出典:DiGiTALiST
BMWは2023年に自社の車両工場にて3Dデジタルスキャンを行い、工場のバーチャル化を行うと2022年に発表しました。バーチャル化によって、計画の作成に要していた労力や支出の削減を実現し、新規立ち上げにおける過程の効率性と安定性の向上を狙いとしています。
3Dスキャンでは、3Dレーザースキャナーやドローンシステムを使用して、車両工場の建物の構造や設備、屋外にあるエリアなどをスキャンしています。完成後は生産システムの開発などを行い、現実世界よりも簡単かつスピーディに情報の共有が可能となります。
生産ラインを改造する際にも同様のプロセスを用いてデータを収集し、デジタル空間上にて計画の最適化や効率化に活用されています。
日立

・出典:日立
日立の大みか事業所では、非接触で人やモノの情報を個別に識別や管理ができる「RFIDタグ」とRFIDリーダー、ビデオカメラを使用して、製造現場における人やモノの流れに関するデータを収集しています。
データを集めることで、製造ラインにおけるデジタルツインを構築し、生産の進捗状況や不良の自動検出などに活用しています。デジタルツインの導入により、導入前よりも工場で生産している代表製品のリードタイムを50%削減することに成功しました。
製造現場以外でもデジタルツインを活用しています。自社開発の運行管理システムでは、電車の位置や速度の情報などを自動で取得し、モニター上で把握できるようになっています。
川崎重工業

・出典:IT Leaders
川崎重工業はMicrosoftと共同で、遠隔地で使用できる共同作業システム「インダストリアルメタバース」を開発しました。ドイツで開かれた展示会では、Microsoftのクラウドサービスである「Azure」を使用して会場と日本をつなぎ、会場側の専門家が、日本側の担当者へ指示を出す場面を公開しました。
インダストリアルメタバースの使用により、現場に向かうことなく遠隔地からでもトラブルへの対応などが可能となります。
5-2. 行政・都市計画における活用
行政分野では、都市全体をデジタルツイン化し、インフラ管理や都市計画の最適化に活用する事例が見られます。
シンガポール政府

・出典:BRIDGE
シンガポールでは、国全体をデジタルツイン上に再現する「バーチャルシンガポール」を展開しています。2014年にリー・シェンロン首相が推進する「スマートネイション構想」の一環として始められました。
シンガポールは、これまで縦割り組織で工事計画の重複が発生していました。そのため、デジタルツイン上で都市情報を可視化し、都市計画の最適化を図っています。
デジタルツインを活用することで、工事後の人や車の流れなどのシミュレーションが可能となりました。そのほか、リアルタイムで工事の進捗状況や交通情報を共有して渋滞の緩和策や工事の効率化に関する検討も実施しています。
シンガポール全体のエネルギー効率の最適化や、物流や人流の最適化などにおいても効果を出しています。
5-3. 研修・教育における活用
研修・教育分野では、実地訓練の代替や技術継承を目的としたデジタルツイン活用が進んでいます。
シーメンス

・出典:AI Market
シーメンスでは、デジタルツイン上で現場の作業スペースを再現し、業務に関する経験を積める環境を構築しました。ARやVRを活用して、実際の作業の流れを把握できるようにした上で、作業内容をデータ化して効率的にスキルアップできるように対応しています。
実際の作業ラインで研修を行う必要がないため、ミスを起こしても問題がなく、ミスの原因をAIで分析して正しい作業方法の習得をサポートしてくれます。熟練の作業員が通常の作業と並行して指導する機会も減るため、作業員の負担軽減にも効果的です。
6. 本章のまとめ
デジタルツインは、現実世界の物体や環境をデータとして取り込み、仮想空間に再現できる技術であり、国や企業において業務の効率化などの成果を挙げています。
デジタルツインには、コストの削減や品質の向上、技術の継承が可能といった多様なメリットがあります。仮想空間上に現実世界と同じ状況を再現できるため、製品のロスが発生しない点も特徴です。
ただし、デジタルツインの導入にはIoT機器やAIシステムの整備が必要であり、センサー設置やデータ連携基盤の構築が前提となります。導入目的と運用体制の明確化が重要となります。
また、デジタルツインと類似する技術としてメタバースやVRがあり、それぞれ適用領域や目的が異なります。リアルタイムデータの取得と将来予測を重視する場合はデジタルツイン、体験設計や教育・研修といった人が介在する場の再構築を重視する場合はメタバース・VR技術が適しています。
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