デジタルアーカイブ
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国の方向性とデジタルアーカイブ

― 制度に合わせるのではなく、方向性に合わせる ―
近年、国においてデジタルアーカイブは単なる「保存の手段」ではなく、社会全体を支える基盤として位置づけられるようになっています。文化財のデジタル化という個別事業の話ではなく、知識や地域資源を横断的に活用できる社会基盤として再定義されている点が重要です。したがって、制度の有無だけで判断するのではなく、国が示している方向性そのものを理解する必要があります。
1. 国が示すデジタルアーカイブの位置づけ
1-1 デジタルアーカイブ戦略の定義
国の公式方針である「デジタルアーカイブ戦略 2026–2030」(出典:首相官邸)では、デジタルアーカイブを次のように定義しています。
デジタル時代における「知るため・遺すため」の基盤として、文化・学術・地域資源等を横断的に活用できる社会基盤
つまり、記録すること自体が目的ではありません。文化資源を社会の中で循環させ、教育や観光、防災や産業と接続させる前提で設計することが求められています。
1-2 単独施策ではなく横断基盤
国の戦略では、デジタルアーカイブは教育、学術研究、観光、地方創生、防災、ヘルスケア、ビジネスといった分野と接続する横断基盤として整理されています。これは分野ごとに個別最適化する発想ではなく、基盤を整備し、その上に多様な活用が広がる構造です。
したがって、後から用途を探すのではなく、最初から使われる前提で設計することが不可欠です。活用先を想定しないデータ整備は、結果として保存に留まりやすくなります。
2. 国が重視する「循環」という考え方
2-1 保存から循環へ
今回の戦略で特に強調されているのは、「デジタルアーカイブの構築・共有・活用の循環を持続的なものにする」という視点です。これは、単年度事業として完了させるのではなく、継続的な運用を前提とする考え方です。
作る、使われる、評価される、改善される、そして再び使われる。この循環が回り続ける状態こそが、国の目指す方向です。したがって、一度デジタル化して終わる構造では不十分です。
2-2 制度は変わるが方向性は変わらない
戦略は2026年から2030年までの期間を対象としていますが、同時に定期的なレビューと見直しが行われることも明記されています。これは制度や予算、補助金メニューが今後も変化することを意味します。
しかし、文化資源を残すこと、地域の記録を継承すること、横断的に活用できる基盤を整備することという方向性は変わりません。重要なのは制度に合わせることではなく、変わらない方向性に沿った設計を持っていることです。
3. 自治体に求められる設計力
3-1 地域主体の施策設計
国の方針では、地方公共団体は「地域の実情に応じた施策を策定・実施する役割」を担うと整理されています。これは、国の指示をそのまま実行する主体ではなく、地域の文脈に合わせて設計する主体であることを意味します。
そのためには、何を残すのか、なぜ残すのか、どのように活かしたいのかを制度とは切り離して整理しておく必要があります。補助金ありきではなく、地域の方針を先に定めることが前提です。
3-2 準備の有無が将来を左右する
戦略では、今後5年間を体制や仕組みを整える期間と位置づけています。つまり、いま準備している自治体と、制度待ちの自治体では将来的な差が生まれます。
補助金が出てから検討するのではなく、あらかじめ設計を持っている自治体は、機会が訪れた際に迅速に事業化できます。その結果として、横断連携や持続的運用の実現可能性も高まります。
4. 国が重視している具体的論点
4-1 事前に設計すべき要素
戦略全体から自治体に関係する論点を見ると、メタデータ整備(情報の整理・意味付け)、2Dや3Dを含むデジタル化、長期保存設計、公開やオープン化、二次利用条件の明確化、多言語対応・海外発信、人材育成・普及啓発といった要素が示されています。
これらはいずれも、事業実施後に追加する項目ではありません。作る前から設計に組み込むべき前提条件として位置づけられています。特にメタデータ整備や利用条件の明確化は、将来的な活用範囲を大きく左右します。
5.本章のまとめ
国の方向性は、「デジタルアーカイブを実施するかどうか」という段階を超え、「どう活かし続けるか」という設計段階へと移行しています。
自治体にとって重要なのは、制度に振り回されないこと、補助金ありきで考えないこと、そして自ら設計できる状態を整えることです。その結果として、補助金を活かせる体制が整い、事業化が早まり、横断的な活用も実現しやすくなります。
デジタルアーカイブは一過性の施策ではなく、継続的な地域基盤です。方向性に沿った設計を持てるかどうかが、今後の分かれ目になります。