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観光分野におけるAI活用|来訪前の迷いや判断プロセスをどう可視化するか

観光分野におけるAI活用|来訪前の迷いや判断プロセスをどう可視化するか

観光分野では、WebサイトやSNS、パンフレットなどを通じた情報発信が年々充実しています。一方で、来訪前に人々がどのような比較や迷いを経て判断しているのか、そのプロセスが自治体・観光協会側から見えにくいという課題も多く聞かれます。景色や有名スポットの情報は伝えられていても、「なぜ行くのか」「自分に合うのか」といった判断の中身までは把握しきれていないケースも少なくありません。本記事では、観光分野におけるこうした課題を整理したうえで、来訪前の検討プロセスを可視化するという観点から、AIコミュニケーションアバターという選択肢を考えます。

近年では、来訪前の検討段階における迷いや関心を対話を通じて整理し、その内容を可視化するアプローチも検討されています。AIコミュニケーションアバターは、情報提供に加えて検討プロセスを把握できる点で有効ですが、体験そのものを代替するものではなく、他の施策との組み合わせが前提となります。

1. 観光分野で見えにくい「来訪前の検討プロセス」

1-1. 表層的な情報提供に留まりやすい現状

多くの観光施策では、「きれいな景色」「有名スポット」「写真映え」といった視覚的な魅力に情報が集中しています。これらは来訪のきっかけとして重要である一方、なぜその場所が生まれたのか、どのような文化や歴史、人の営みがあるのかといった背景まで十分に伝えきれていないケースも見られます。

実際には、こうした背景ストーリーまで理解できたときに、来訪後の満足度や記憶への定着、再訪意向が高まる傾向があります(参考:文教大学国際学部 研究論文 [PDF])。しかし、その情報を適切なタイミングで、関心に合わせて届ける手段が限られているのが現状です。

1-2. Web・パンフレット・看板が「届きにくい」理由

現場からは、「パンフレットは手に取られても読まれていない」「看板や説明文は素通りされがち」「Webサイトは調べたい人しか見ない」といった声が多く聞かれます。

情報そのものは存在しているものの、来訪者や検討者の関心や状況に合った形で届いていない状態です。結果として、情報量は増えているにもかかわらず、理解の深まりや納得感につながりにくい状況が生まれています。

1-3. 来訪前の情報探索がブラックボックス化している

観光の意思決定は、多くの場合、夜間や休日に一人でスマートフォンを使って行われています。しかし自治体や観光協会が把握できるのは、PV数や滞在時間、クリック数といった行動ログが中心です。

なぜ迷っているのか、何と比較しているのか、どこに不安を感じているのかといった判断の中身までは見えていません。そのため、次の施策にどう反映すべきか、根拠を持って判断することが難しくなっています。

2. 観光文脈でAI活用が進みにくい理由

2-1. 効率化AIに対する現場の違和感

観光分野でAI導入を検討すると、「FAQ対応だけで終わってしまうのではないか」「画一的な回答になり、地域らしさが失われるのではないか」「本音や感情までは拾えないのではないか」といった懸念が挙がりやすくなります。

業務効率化を目的としたAIは、問い合わせ対応や情報整理の面では有効である一方、観光が持つ文脈や感情の部分とは相性が悪いのではないか、という不安が現場には存在しています。

2-2. 観光における価値が「定型化しにくい」こと

観光の魅力は、価格や機能のように明確な比較軸で整理できるものではありません。同じ場所であっても、人によって魅力の感じ方は大きく異なります。静かな時間を求める人もいれば、人の気配や賑わいに価値を感じる人もいます。歴史や文化に惹かれる人もいれば、移動や風景そのものを楽しみたい人もいます。

こうした価値の多様性があるため、「これが正解」と言い切る情報提供や、あらかじめ用意された回答だけでは伝えきれないという前提があります。

2-3. AI導入が「置き換え」と誤解されやすい

AI活用という言葉から、「人の代わりに対応する」「現場を省人化する」といったイメージを持たれることも少なくありません。そのため、観光案内や地域との関わりを大切にしてきた現場ほど、AI導入に慎重になる傾向があります。

実際には、AIは人の代替ではなく、来訪前の検討や理解を補助する役割として位置づけることができますが、その前提が十分に共有されないまま検討が進まないケースも見られます。

・出典:日経新聞「AIはブランドを無効にする 星野リゾート、変革への備え」

観光分野においては、AIを単なる効率化の手段としてではなく、来訪者の判断や選択にどう関与するかという視点が重要になります。

宿泊・観光事業を展開する星野リゾートの代表である 星野佳路 氏も、日経新聞のインタビューにおいて、AI活用とブランドマーケティングの関係について触れています。AIが曖昧な問いや要望に対しても膨大な情報の中から最適な選択肢を提示できる存在になりつつある点を指摘しています。

ブランドやイメージだけに依存するのではなく、条件や事実に基づいて選ばれる仕組みが重要になるという考え方は、来訪前の検討プロセスを支えるAI活用を考える上で示唆的です。

3. 来訪前の検討プロセスを可視化する「対話」という考え方

3-1. 表層情報ではなく、背景に触れる対話

対話型のアプローチでは、一問一答の情報提供ではなく、利用者の関心を探りながら会話を進めることができます。例えば、「景色が好き」という反応に対して、なぜそう感じたのか、朝と夕方ではどちらが好みか、静けさを求めているのか人の気配を楽しみたいのか、といった形で関心を深掘りしていきます。こうした対話を通じて、文化や歴史、背景ストーリーへと自然につなげることが可能になります。

3-2. 比較や迷いが生まれる段階で機能する

対話が特に力を発揮するのは、来訪前の比較や検討のフェーズです。行くか迷っている、他の地域と比較している、不安を感じているといった段階で、背景情報や自分に合った楽しみ方を整理できることで、「なんとなく良さそう」から「行く理由が言語化された」状態へと変化します。

3-3. GA4では見えない検討ログを取得できる

対話を通じて得られた内容は、利用者の迷いや不安、比較軸といった検討プロセスのログとして蓄積されます。どこで前に進んだのか、どこで止まったのかといった情報は、従来のアクセス解析では把握できません。これらのログを活用することで、コンテンツ設計の見直しや観光施策の改善につなげることが可能になります。

ここまでで整理すると、本稿で扱っている観光分野におけるAI活用は、問い合わせ対応の効率化や自動化を目的としたものではありません。来訪前に生じる比較や迷い、不安といった検討プロセスを、対話を通じて整理し、判断を支えるためのアプローチです。

以下では、こうした考え方を前提に、実装や運用の観点から具体的な形を見ていきます。

4. 観光体験は「場所」だけで完結しない

ここからは、前章までで整理した考え方を前提に、観光体験を「場所」だけでなく「プロセス」として捉えた場合、AIがどこに関与し得るのかを具体的に見ていきます。

4-1. 観光の価値は「点」ではなく「プロセス」に存在する

観光というと、目的地そのものや有名なスポットに注目が集まりがちですが、実際の体験はそこに至るまでの過程も含めて構成されています。移動時間の長さや短さ、乗り物の揺れや静けさ、車窓から見える風景、時間帯による空気の変化など、目的地に到着する前から体験は始まっています。

こうしたプロセスは、パンフレットやWebサイトでは十分に語られないことが多く、「行ってみないと分からないもの」として扱われがちです。しかし実際には、来訪前にこうした情報が共有されることで、不安が和らいだり、期待が具体化したりするケースもあります。

4-2. 同じ移動・同じ時間でも、感じ方は人によって異なる

例えば、移動時間に対する捉え方一つを取っても、人によって価値は大きく異なります。何もしない時間を贅沢と感じる人もいれば、効率よく目的地に着きたい人もいます。賑やかな車内を楽しむ人もいれば、静かな空間を好む人もいます。

駅弁や車内販売、駅ナカでの過ごし方、途中下車の有無なども含めて、観光体験の魅力は一様ではありません。こうした違いがあるからこそ、「この観光地はこう楽しむもの」と一つの正解を提示することは難しくなっています。

4-3. 過程の価値は、対話によって初めて言語化される

移動や過程にある魅力は、あらかじめ用意された説明文だけでは伝えきれないことが多くあります。
対話を通じて「何を大切にしたいのか」「何が気になっているのか」を整理することで、同じ情報でも伝えるべき内容や順序は変わってきます。

その結果、目的地そのものだけでなく、移動や時間の使い方を含めた体験全体を、自分ごととして捉えやすくなります。観光体験を点としてではなく、連続したプロセスとして捉える視点は、来訪前の検討段階において重要な意味を持ちます。

4-4. 観光分野で最初に導入されやすいAIが「Webチャットボット」

観光分野でAI活用を検討する際、最初の選択肢として挙がりやすいのが、Webサイトに設置するチャットボットです。

観光協会やDMO、宿泊施設の公式サイトなどに設置され、質問に対して即座に案内を行う仕組みとして活用されています。主な役割は、予約前や来訪前に生じる不安の解消、情報の探しにくさの軽減、電話やメールによる問い合わせ対応の補助などです。

この段階では、高度な提案よりも「まず聞ける」「すぐ答えが返る」ことが重視される傾向があります。

4-5. 利用者側から見たWebチャットボットの価値

利用者にとっての大きな利点は、欲しい情報にすぐ辿り着ける点です。
観光サイトでは情報量が多く、どこに何が書かれているか分かりにくいことも少なくありません。

チャット形式で

「雨の日に楽しめる観光地はあるか」
「子ども連れでも行きやすい場所はあるか」
「現在開催中のイベントは何か」

といった質問を投げかけることで、検索よりも直感的に情報を得ることができます。

また、24時間対応や多言語対応が可能な点も特徴です。深夜に旅行計画を立てる場合や、海外からの事前調査においても利用しやすく、電話での問い合わせに心理的ハードルを感じる層にとっては特に有効です。

4-6. 運営側から見た導入メリット

運営側にとっては、よくある質問への対応を自動化できる点が大きなメリットです。電話やメールでの問い合わせが減少し、対応工数の削減につながります。

また、迷っている利用者に対して、その場で疑問を解消できるため、予約や来訪を後押しする役割も果たします。「駅からの距離」「アクセス方法」「設備の有無」といった、判断を左右しやすいポイントをタイムリーに補足できることは、離脱防止にもつながります。

さらに、チャットログを通じて

・どの質問が多いのか
・どの情報が分かりにくいのか

といった利用者の関心や不安を把握することができます。

これらはWebサイトやパンフレットの改善、次の施策検討に活用できる情報となります。

4-7. 経営・戦略視点で見た位置づけ

Webチャットボットは、人件費や対応工数の削減といったコスト面だけでなく、回答品質の平準化や、小さく始められるAI導入という点でも位置づけやすい施策です。

将来的に、より高度なAIコンシェルジュへと発展させるための第一段階として捉えられるケースもあります。

4-8. 導入時に注意すべき点

一方で、設置しただけで放置されてしまうと効果は限定的になります。情報が更新されていない、何でも答えさせようとして混乱する、といったケースでは、利用者の信頼を損ねる可能性もあります。そのため、まずはFAQに特化した形で始め、更新担当を明確にし、必要に応じて人につなぐ導線を用意するといった運用設計が重要になります。

重要なのは、どのツールを導入するかではなく、来訪前に生じる迷いや不安をどのように捉え、どの段階で、どのように扱うかという設計思想です。Webチャットボットはその一つの形にすぎず、目的に応じて他の手法と組み合わせて検討されるべきものです。

5. AIコミュニケーション活用の前提と限界

5-1. 体験そのものを代替するものではない

対話はあくまで言語のレイヤーであり、空気感やスケール感、身体的な没入感を完全に伝えることはできません。XRや動画などの体験コンテンツと組み合わせることで、初めて価値が最大化されます。

5-2. 行かなくても満足させるための仕組みではない

AIコミュニケーションアバターは、観光体験を完結させるためのものではありません。目的は「行く」「選ぶ」という判断を前に進めることにあります。

5-3. 初期設計には人の関与が不可欠

地域ごとの文化や言葉遣い、文脈を反映するためには、初期のヒアリングや設計、継続的なチューニングが必要です。完全自動ではなく、対話ログを分析しながら育てていく前提となります。

6. メタバース空間におけるAIコミュニケーションアバターの実装例

AIコミュニケーションアバターは、Webサイト上だけでなく、メタバース空間内に実装することで、空間体験と対話を組み合わせた形で活用することができます。

本章では、観光分野における実装例として、メタバース空間内にAIコミュニケーションアバターを配置し、来訪前の検討プロセスを補助することを目的とした実証実験の取り組みを紹介します。

実績記事:大阪府河内長野市|AIデジタルスタッフを搭載したデジタル観光案内所

6-1. メタバース空間を活用したデジタル観光案内の設計

本事例では、観光情報がWebページやパンフレットなど複数の媒体に分散している状況を前提に、メタバース空間内にデジタル観光案内の場を構築しました。利用者は空間内を回遊しながら、気になったタイミングでAIコミュニケーションアバターに話しかけることができ、質問内容に応じて関連する情報へと案内される設計となっています。

従来のWebサイトでは、情報量が増えるほど「どこを見ればよいか分からない」という課題が生じやすくなりますが、本取り組みでは、空間体験と対話を組み合わせることで、利用者が自分の関心に沿って情報へ辿り着ける導線づくりを重視しました。

6-2. 実装を通じて見えてきたポイント

本事例を通じて、観光分野におけるAI活用は「高度な提案」よりも、「聞ける」「整理できる」環境を整えることが重要であることが見えてきました。

特に、来訪前の検討プロセスに寄り添う形で設計することで、情報提供が一方通行にならず、利用者の理解を補助する役割を果たしやすくなります。

7. まとめ

本記事は、観光分野において情報発信やデジタル施策を検討する自治体やDMO、観光協会の担当者を主な読者として、AI活用の考え方や設計の視点を整理したものです。特定のツールやサービスの導入を前提とするものではなく、来訪前の検討や判断をどのように支えるかという視点を共有することを目的としています。

観光分野の課題は、情報が足りないことではなく、検討や判断の中身が見えにくいことにあります。対話を通じて個別の関心や迷いを言語化することで、GA4では把握できない比較や不安を可視化することが可能になります。単体で完結するものではなく、体験コンテンツと組み合わせることを前提とした取り組みです。観光を「売る」から「理解され、選ばれる」へと変えていくための一つの選択肢として、検討する余地があります。

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